まつり当日の様子
2月23日:猿の子踊|奈良豆比古神社の翁舞|豊前市の岩戸神楽|地唄「雪」|狂言「金津地蔵」|角兵衛獅子|酒田まつり
2月24日:秋田の「むかしこ」と「猿倉人形芝居」|「天人」と「津波古の棒術」|安来節と銭太鼓|ケンケト祭|「翁」|大蔵谷の獅子舞|盛岡さんさ踊り
第8回 地域伝統芸能まつり テーマ「翁と童」
日本各地で受け継がれている地域伝統芸能や古典芸能を紹介している「地域伝統芸能まつり」では8回目を迎える今年も、たくさんのご応募をいただきました。
ご応募をいただきました皆様、誠にありがとうございました。当日はやや肌寒かったものの、多くの来場者を迎えることが出来ました。
さて、今年は「翁と童」をテーマとして、各地の地域伝統芸能の中から12の演目と、古典芸能から3の演目をご覧いただきました。
司会
司会は、地域伝統芸能まつりではお馴染みの女優の竹下景子さんと、今回が初めてとなるNHKの水谷彰宏アナウンサー。 二人の息の合ったお話で、出演された方々から地域の伝統芸能の面白さや、芸能の継承に関する話などを聞き出し、伝統を受け継いでいる人々の姿を伝えていただきました。
■第1日 2月23日(土)午後2時30分開演
オープニングは太鼓の音が鳴り響き、拍手とともに緞帳が上がると和太鼓奏者上田秀一郎さんの勇壮な和太鼓演奏から始まりました。会場全体はまつりの始まりにふさわしい興奮につつまれ、「地域伝統芸能まつり」のテーマ曲「曼荼羅21序章」にあわせて、各地から出演される方々が大きな拍手のなか登場しました。紅白の鮮やかな手拭いを振りながらの入場する姿に、舞台も華やかなものとなりました。
猿の子踊(さるのこおどり) 鹿児島県 指宿市/下門猿の子踊保存会
最初の地域伝統芸能演目となるのは鹿児島県指宿市から猿の子踊です。
今から約260年前に始まりを持つこの踊りは、子どもが猿の扮装をして猿使いの命令により各々独特の妙技を展開するもので、精一杯猿を演じ、声を出す猿の子供たちの姿や、小さい子供が扮する小猿を助ける親猿役の子供たちの姿は見ている側を暖かい気分にさせるものでした。
奈良豆比古神社の翁舞(ならずひこじんじゃのおきなまい) 奈良県 奈良市/奈良豆比古神社翁舞保存会
猿に扮した子供(童)の踊りに続いては、奈良県奈良市から「奈良豆比古神社の翁舞」です。奈良県からは、今回が初登場となります。
毎年10月8日の宵宮祭に奉納されるこの翁舞は、太夫と脇の三人舞や、互いに対面せずに行う三番叟と千歳との問答などの特徴があり、民間に伝わる翁舞として貴重な存在と言われています。また、今回使用された面は室町時代の作で、普段は奈良県立博物館に保管されているものです。翌日に上演される「翁」とのつながりを感じさせる不思議な魅力を持つ翁舞が披露されました。
豊前市の岩戸神楽(ぶぜんしのいわとかぐら) 福岡県 豊前市/大村神楽講
続いて厳かな雰囲気の翁から一転し、「豊前市の岩戸神楽」が登場します。豊前市の岩戸神楽には祓い清めの厳粛な舞いもありますが、今回登場したものは、「盆神楽」と「湯立神楽」です。
「盆神楽」では舞手の男性がお米を載せたお盆を両手に持ったまま、回転したり跳んだりと激しく舞っているもかかわらず、両手のお盆からはお米は一粒も落ちてこないという妙技に、会場からは大きな拍手があふれました。
「湯立神楽」では、舞台に現れた鬼が神主に命じられ、NHKホールの天井に届くほど高い柱に登ると会場からは喚声があがります。柱の先にまで上った鬼は、そこから舞台まで下ろされた綱を伝い、手を使わずに降りはじめます。さらに、途中で停止したかと思うと綱の上で一回転するという妙技も披露し、終始会場を圧倒していました。
地唄「雪」(ゆき) 舞:大和松蒔、唄・三弦:富田清邦
「雪」は18世紀後半につくられた地唄の傑作で、作曲は峰崎匂当、作詞は流石庵羽積で大阪の芸妓ソセキが題材といいます。「花も雪もはらへば清き袂かな、ほんに昔のむかしのことよ」と、今は浮き世を捨て尼になった女の昔語りで、愛しい人と別れた女心を雪の中に舞い描きます。細やかな情緒を感じさせる地唄と、細部にまで優美さを徹底させた舞に会場の方々の目も魅了されていました。
狂言「金津地蔵」(かなづのじぞう) 野村小三郎(和泉流)ほか
新しく持仏堂を建立した金津の者が、仏師屋の所在地も知らぬまま本尊にする地蔵を求めに都にやってきます。行商人の売り声を真似して歩いていると、日々の生活に困窮している男が仏師に成りすまし、自分の息子を地蔵に仕立て、まんまと売りつけます。
持仏堂に安置されたお地蔵様に仕立てられた子供は饅頭が食べたい、お酒が飲みたいと言い出し、いつの間にか酒盛りになり、里人も浮かれて踊り出すと、お地蔵様も踊り出します。
お地蔵様にされる子供と里人とのやりとりや舞は、見ている側も和やかで楽しい気持ちにさせる演目でした。
角兵衛獅子(かくべえじし) 新潟県 新潟市/角兵衛獅子保存会
「角兵衛獅子」は、新潟市南区月潟村(旧月潟村)を発祥の地とし、全国各地を渡り歩いた大道軽業芸でした。明治になり諸々の事情で衰退を余儀なくされ、村から完全に姿を消しました。
保存会は、その芸能性を惜しむ有志により結成され、現在演じられる芸は当時復活伝承されたものです。
現在に継承している子供たちが一つ一つの芸を披露するたびに会場からは大きな拍手があふれていました。
酒田まつり(さかたまつり) 山形県 酒田市/坂田まつり実行委員会
1日目の最後を飾るのは山形県酒田市の「酒田まつり」、上下両日枝神社の例大祭「山王まつり」として、慶長14年(1609年)から一度も休むことなく続けられている伝統的な祭で、今年で400回目を迎えます。
昭和54年に大火復興を記念し、新生坂田のシンボルとして制作された大獅子がNHKホールに登場すると観客の方々の目を集め、最後は1日目に出演した地域伝統芸能団体の方々が次々登場して締めくくりました。
■第2日 2月24日(日) 午後2時30分開演
秋田の「むかしこ」と「猿倉人形芝居」(あきたのむかしことさるくらにんぎょうしばい) 秋田県 羽後町(うごまち)/羽後町の皆さん・猿倉人形・野中吉田人形芝居「吉田榮楽一座」の皆さん
第2日は秋田県羽後町の子ども達のわらべ歌から始まりました。
囲炉裏端を模した舞台に語り部と子供たち、竹下景子さんが座り、語り部の語る「むかしこ」の秋田の方言は、農村の冬の囲炉裏端を思わせるような暖かさを感じました。
続く「猿倉人形芝居」では、優しい女性の顔から恐ろしい人形の顔へ早替えをする人形劇で、素朴で野性味のあふれるものでした。どちらの芸能も後継者となる若者が現れていることが頼もしく感じられました。
「天人」と「津波古の棒術」(あまんちゅうとつはこのぼうじゅつ) 沖縄県 南城市(なんじょうし)/津波古天人保存会・津波古棒術保存会
続いては北の秋田県から一転して南の沖縄県南城市の「天人」と「津波古の棒術」が登場しました。
南城市は多くの芸能が保持されており、今回はその中らか2つの演目に出演いただきました。
「天人」は今回、初めて沖縄以外で公演されるもので、首里王府時代から伝承されています。二人一組で3メートルの高さの天地創造の神(天人)を演じています。
「津波古の棒術」は約300年あまりの伝統を誇る勇壮な演舞です。沖縄の独特の装いで、ダイナミックで躍動感あふれる演舞が披露されました。
安来節と銭太鼓(やすぎぶしとぜにだいこ) 島根県 安来市/安来節保存会
安来節は元禄頃港として栄えていた安来で形作られ、明治の終わりから昭和にかけて全国民謡となりました。
くり抜いた竹の両端に穴のあいた銭を取り付けた銭太鼓は、独特の手振り調子が軽快で息の合ったリズムを奏で、ユーモアあふれる踊りの「どじょうすくい(男踊り)」では会場から大きな笑いが客席をつつみました。また、「どじょうすくい(女踊り)」は男踊りとは対照的な女性的で優美な踊りを披露しました。
ケンケト祭(けんけとまつり) 滋賀県 竜王町(りゅうおうちょう)
そろいの友禅模様の衣装で、鉦や太鼓を打ち鳴らしながら薙刀踊りを奉納する郷土色豊かな祭りで、各家の長男しか参加できないという特徴があります。
今回は奉納する途中にイナブロの先についた五色の短冊を奪うため、イナブロを倒そうとする見物人と、イナブロの警護が応戦するやりとりも実演されました。
「翁」(おきな) 観世清和(観世流)、野村萬斎(和泉流)ほか
「翁」では、最初に千歳が舞い、次いで翁役の大夫が白式尉の面を付け、天下太平国土安寧を祈る舞を悠々として厳かに舞います。後半は狂言方による三番叟の舞となり、大地を踏みならす力強い揉ノ段、黒式尉の面をつけた鈴ノ段を舞います。
地域の伝統芸能と古典芸能を一堂に会し紹介している地域伝統芸能まつりですが、今回テーマともなっている「翁」に関して、地域の伝統芸能として「奈良豆比古神社の翁舞」を、古典芸能として「翁」という同じ名前を持つ演目を上演しました。
古い形を残した地域伝統芸能の「翁」と、そこから芸術にまで洗練させた古典芸能の「翁」のそれぞれの魅力や異なる面白さが感じられました。
大蔵谷の獅子舞(おおくらだにのししまい) 兵庫県 明石市/大蔵谷獅子舞保存会
「大蔵谷の獅子舞」は毎年10月の第2土日に稲爪神社の秋祭りに五穀豊穣、家内安全を祈願して奉納されます。
2人立ち神楽獅子舞で、荒々しい芸風を特徴としており、「だんじり」「3人継ぎ」といった他では見られないスケールの大きな演目には会場から大きな拍手が上がっていました。
盛岡さんさ踊り(もりおかさんさおどり) 岩手県 盛岡市/盛岡さんさ踊り清流会
2日間に渡って開催された地域伝統芸能まつりの最後は、岩手県から盛岡の夏の祭りとして定着している「盛岡さんさ踊り」です。
町内、職場、学校と老若男女様々な団体が参加して、4日間で160団体、踊り手約2万人、太鼓は日本一の1万5千個という大規模な祭りとなっています。今回も、盛岡から大勢方が息の合った踊りを披露してくださいました。くるくると素早い動きで回りながらも、見事な太鼓のばちさばきを見せる踊りに、会場の雰囲気も最高潮に達し、第8回地域伝統芸能まつりの熱演を締めくくりました。
【地域情報PRコーナー】
地域伝統芸能等の地元5団体に参加していただき、各地の伝統文化や観光等の地域情報や特産品等のPRを行う「地域情報PRコーナー」をNHKホール2階ロビーに設けました。
イベント当日は、開演前や休憩時間を中心に、全国から集まった多くの観客がこのコーナーを訪れ、2日間とも大盛況でした。
当日のアンケートに寄せられたご感想
- 豊前市の岩戸神楽、酒田のまつり:現地での拝観を実行したい。
- 子供達「あとつぎ」の方々が一生懸命で好感持てた。「先達」の指導が良いのでしょうか。
- どの演目もすばらしかったです。ニュースでチラッとしか移らなかったので実際に目の前で見るのは感じるものを多くいただきました。後継者が育つことを祈ります。
- 小さい子供が伝承していく姿に感激しました。地唄、角兵衛獅子は初めてでうれしかったです。
- これからの日本をついで行く子供達に、是非生で見て日本を体験してもらいたい。
- 神楽にもこんなにスリリングな芸があるとは思いませんでした。
- 始めてみましたが、地域にこんなに伝統芸能が残っているとは知りませんでした。今後ずっと受け継いでほしいです。すばらしいもの、ありがとうございました。
- みんな一生懸命でみていて感動しました。今後も伝承しつづけてもらいたいと思います。
- 何十年ぶりの脳は良かったです。若い頃を思い出して。
- 各地の特性が良く表れていて世界が広がりましたありがとうございます。
- 地域の芸能が知らない土地の人、全国の人に観られるということには演じる人もより励みになると思います。
- 銭太鼓は揃っていてすばらしかった。なかなか見られないものがうれしい。さんさ踊り見に行こう。
- 滋賀県の出身ですが、ケンケト祭のこと全く知りませんでした。まだ続いていることを嬉しく思いました。
- 今まで聞いたことはあっても、実際に見たことのない芸能をたくさん見ることができ、感動しました。すばらしい公演でした。
- 現地へ行かなくとも舞台で地域の伝統芸能が見られ大変良かった。伝統文化がかれていく事を望んでいます。
- いろいろな芸能が見られて良かった。「翁と童」の主題が良くきいていた。(特に1日目の岩戸神楽がとても良かった。2日目の翁(野村萬斉)がとても良かった。)
- この催しによって地方の歴史を知ることができます。ありがとうございました。
- 若い人達が一生懸命踊っている姿を見て感動しました。又、機会がありましたら各地の伝統芸能を見たいと思います。